夕凪の花嫁
鳥居の上に軽々と跳躍すれば、爽快な光景がそこには広がっていた。



庵が歓声をあげる。



「うわあ……すごいね!こうして見ると、すごく立派な大樹だね」



庵の言葉に何故か草可が心の底から嬉しそうに笑う。それは庵がここに来てから、初めて見るものだった。



「ここの大樹は、ここの国の守護樹なんだよ。守り神みたいなものかな。庵の国はどんなところ、だったのか聞かせてくれる?そして、何があって国が滅びてしまったのかも。夕凪もそのつもりだったんでしょ?」

「ああ。それに……庵をあのまま置いてくわけにもいかない」



草可は頷き庵を見る。それを合図に、庵は話始めた。自分の知る限りの事を――――



「僕のいた国の名は紅火(コウカ)。守人の名でもあり、僕と同じ鬼だ。でも、紅火が死んでしまったから……もう、紅鬼は僕しかいない。人と暮らす者もいれば、そうでない者もいる。人が好きな者がいれば、嫌う者もいる。――人を好いてる者は稀、なんだよね」



庵はそう言って口をつぐむ。夕凪も草可も庵の言わんとしている事を理解している。同じ存在であるからこそ、わかる共通の痛みであり苦しみだった。



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