夕凪の花嫁
口を開いたのは夕凪だった。



「紅火は人が好きだったんだな……」

「うん。大好きだったよ、ぼくは好きじゃなかったけど……紅火は大好きだったんだ、本当に」



懐かしそうに、でも寂しそうにそう言った。



草可は水面をじっと見たまま動かない。こういう時の草可は何を話しかけても無駄だという事を、長い付き合いの夕凪は知っているため、夕凪が話を進める事にした。



「それがどうして紅火の死に繋がる?」

「……紅火が死んだ原因が人だから。人とぼくらが共に暮らす場合、ぼくらの存在は絶対守秘。なのに、何故か人は紅火が人じゃない事を知ってたんだよ。バレるような事は万が一にもないはずなのに……。そのあとは、想像通りかな。でも、紅火は最後まで笑っててさ、人には絶対手を出さなかった。逆に血がのぼったぼくを止め守ってくれた…………」



庵はひどく憔悴しきっていた。同じ鬼の仲間を失い、その鬼が好きだった人に殺され正直気が狂ってしまいそうだった。夕凪は立ったまま、話をただ黙って聞いている。今の自分にできる事はそれ以上何もない、できもしないのに自分を過信する方が相手を傷つける事を知っているから。



< 15 / 28 >

この作品をシェア

pagetop