夕凪の花嫁
食後休む間もなく出かける支度をし、草可が大樹の枝上から見守る中夕凪は扇を広げ言葉を紡ぐ。



「我が力を通じ、世界を巡りし聖なる風を辿り導け」



夕凪と庵の足元から風が巻き起こり水面が大きく揺れ、姿が消える前に夕凪が草可の方を見た。



「誰かが干渉してる。……油断、するなよ」

「大丈夫だって。夕凪こそ、庵の事ちゃんと守ってあげてね」

「あたりまえだ」



二人の姿が社の国から消えてると、草可は欠伸をひとつする。



「わざと泳がせてやってたんだけど、隠れるのほんと上手くて嫌になるよねぇ。さてと……始めるとしますか」



今一緊張感のないまま草可は笑う。



どうせ、自分は夕凪が戻ってくるまでの繋ぎだ。



ここさえ守れたらそれでいい、それさえ違えなければいい――



草可はすっと瞳を閉じる。



瞳を閉じれば、彼女が思い浮かぶ。



哀しい結末と共に。



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