夕凪の花嫁
夕凪はため息をつく。



「ここにはいないか……」



そう簡単に見つかるはずはないと頭ではわかってても、落胆は隠せない。



無造作に積み重ねられた瓦礫の山。



こんな場所に琥珀姫がいるはずない、もしいたのなら――こんな光景を決して無視できない性格だって事を、夕凪がよく知っている。



「人の気配……?」



命の源、とも言われている守人がいないこの国で、生存できるはずがない。夕凪は怪訝そうな顔をしながらも、瓦礫の山のてっぺんから駆け出す。



一陣の風から、琥珀の狐へと姿を変えて。



みるみるうちに加速をし、もはや常人の目では姿さえも捉える事はできない。



変わらない景色の中を迷わず琥珀の狐が疾走する。まるで、最初から位置を把握してるかのように。



< 7 / 28 >

この作品をシェア

pagetop