夕凪の花嫁
子供の指先がぴくりと動きゆっくりと閉じていた目蓋が開き、紅の双眸が夕凪を見つめる。



薄茶の髪もぼさぼさで、見た限り奴隷か浮浪者にしかみえない。



「……助けて、くれたの?」

「死にかけた奴を放置するほど、鬼畜じゃない」

「……そっか」



子供は苦笑し体をゆっくり起こしぺこりと頭を下げる。



「ありがとう、助かったよ。ぼくは庵(イオ)君は?」

「夕凪だ。おまえが助かったのは――守人の血のおかげだろう、守人の血は護りの盾となる。少量の血だけでも効果はあるし、血を飲めばより効果が増す」

「そうだね。夕凪は、守人なんでしょう?守人だから詳しいんだよね」



しばし沈黙が流れる。嘘をつく必要もないと思ったのか、夕凪は頷く。



「ああ。庵、そういうおまえはどうなんだ?人とは違う匂いがおまえからする」



鋭い指摘に庵はふっと笑う。自分の存在を明かす事は、危険が伴う。だからこそ、明かさないのが賢いと言われてきたが、庵は迷う事なく言い切った。



「そうぼくは人じゃない、紅鬼と呼ばれる“鬼”の末裔。見た目は子供だけど、もう何百年も生きてるし」

「鬼なら、生き残れそうなものだが……」

「そう思うよね、普通は。今は鬼より、限りなく人に近い。でも……人でもないんだよね。ぼくらは似てるね」

「そうだな……。鬼として残ってるものはないのか?」

「紅の瞳と無駄に長命な、この命だけだよ」



寂しそうに笑う庵に背を向け無言のまま来た道を引き返す。



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