優しい雨
私は目の前が微かに揺れるのを感じた。

また夫は死のうとしたのだろうか?

「多分、喉を狙ったのだと思いますが、破片もそんなに大きいものではないし、すぐに周りの者も気がついて止めに入りましたから、顎を少し切っただけで済みました。
病棟には危険な物は置かないようにしていたつもりだったのですが・・・手落ちでした。
看護が行き届いていなかったことお詫びします。
看護師長も奥さんにきちんとお詫びしたいと先ほどまで私と一緒に待ってたんですが、ちょっと仕事の手が離せなくなってしまって、落ち着き次第こちらに来ますので」

先生に続けて、杉井さんも私に向って頭を下げる。

「本当に申し訳ございませんでした。スッタッフ一同で反省し、二度とこのようなことが無いように、全ての病棟内を再点検する予定です。どうか容赦をお願いします」

そんなことをした夫を責めるような言葉が二人からは全く無かったことに、私は少し救われた気がして頭を下げた。

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