優しい雨
「はい、これ」

私は修一が病気になる前に好んで読んでいたミステリー作家の最新刊を、鞄から取り出して修一に手渡した。

修一は一年の間に随分筋肉が落ちてしまった腕を伸ばしてその本を受け取ったが、すぐにテーブルに置いて無表情で言った。

「頭が働かないし、集中できないから読めないよ」




修一は以前よく『何で生きているのか分からない。生きていたってしょうがない』
というようなことを言って涙を流すことがあった。

そういった時は励ましてはいけないと病院のスタッフから言われていたので、私は自分がどうして良いのか分からず、ただおろおろするばかりだった。
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