優しい雨
彼の手が私に触れた時の、心も身体もほぐれていくような感覚が甦って来る。

すると仕事中でも何でも、つい手が止まってしまうので、その度に私は深いため息を吐いて、もう考えまいと自分に自制を掛けた。

しかし私の意思に反して無意識は彼を追い求め、気がつくとまた彼のことばかりを考えてしまっていた。 



『鯖の竜田揚げ定食』が運ばれてきた。

「以上でご注文はお揃いでしょうか?」

高校生だろうか?小柄な女の子の店員が愛らしい声で訊いた。

「はい」

私は竜田揚げを一口食べると、お腹がすごく減っていたことに気が付いた。

そういえば今日の昼は外交に出て食べていなかったんだっけ。

これじゃあいけない、せめて夜はきちんとした食事をしなきゃと思ってこの店に来たのだ。

最近、急に私がそんなことを気にするようになったのは、彼が私の心配をしてくれるからだった。
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