優しい雨
「道々、散歩がてら歩いている感じだよ。神社とかもあるし」

「こんな雨の中、大変だっただろうに」

ますます眉を八の字にして、修一は呟く様に言った。

その様子に私はびっくりしてしまった。

夫の私を気遣うような言葉を聞くのは、本当に久しぶりだったからだ。

外泊が中止になったあの半年前からは初めてのことではないだろうか?

驚いて言葉の出ない私に修一も驚いたのだろうか、私を見つめて「どうかしたの?」と訊いた。

喜ぶべきことなのかもしれないが、しばらく修一の言動に心が揺さぶられるようなことはなかった私は複雑な心境になった。



その時、若い男性の看護士が部屋に入って来た。

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