優しい雨
本田先生は四十代半ばで医者らしい威厳のある顔つきをした男性だ。

いつも先生に何か言われると、私は必要以上に畏まってしまう。

杉井さんとは半年前に夫が外泊する際にお世話になっているので、会うのは久しぶりだが、多分三、四回くらいは会ってはいるだろう。

私より少し年上に見受けられる彼女は、ストレートの髪を肩まで伸ばし、細い銀のフレームの眼鏡を掛けて、昔クラスに一人はいた優等生タイプの女の子を連想させる。


先生は椅子に腰掛け、杉井さんも座ったのを確認すると、私に向かって話し始めた。

「今日は小泉さんどうでした?ちょっと元気だったでしょう?」

「ええ、はい、いつもよりは良かったと思います」

少し戸惑い気味な口調になってしまった。

しかしそんなことは気にも留めない様子で先生は続けた。

「そうでしょう。春先は良くなかったから、本人も苦しいと言うので今月から薬を替えたんですよ。ほぼ半年前と同じような処方に戻しただけなので、副作用の心配はありません。今三週目なのですが結構、調子が良いようなので、このままの状態が続けばそろそろご主人に自宅へ外泊してもらおうかと思いまして」

「ありがとうございます。しかし大丈夫でしょうか?また前のように悪くなるようなことないでしょうか?」

私は半年前の外泊時に落胆している修一の姿が思い出され、素直に先生の話を喜べないでいた。


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