優しい雨
「勿論、すっかり良くなったというわけではありませんから、まだいくらか病状が揺れることはあるかとは思いますよ。しかし症状が全て無くなるのなんて待っていたら、いつまでも退院できませんよ。まあ外泊が上手く行かないと退院させられませんから、実際に外泊をして慣らして行く他は無いですからね。奥さんも毎日、お仕事で大変でしょうが、多少不安はあったにしても先を見ていかないとね。いつまでもこのままというわけには行かないでしょう」

先生の言葉尻にはいつまでも入院されていては困る、というようなニュアンスが感じられた。

この病院に入院したうつ病患者の中では、修一は長い方であるらしかった。

先生には以前、修一は治療効果が思ったように上がらない患者だというような事を言われたことがある。

この病院で若くして副医院長を務める本田先生は、自分の腕には相当な自信を持っている様子で、その時は修一が良くならないのは治療のせいではなく、修一のせいであるかのような口ぶりだった。

「近日中に小泉さんに外泊の話をして、まあそうですねえ、来月の頭には始めてもらおうかと思いますが」

先生の言葉に私はただ首肯くしかなかった。
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