優しい雨
「いえ、夜遅くまでの仕事はありません。遅くても六時半か七時くらいには終われます。もともとは主人も私も勤めていた会社ですから、主人が家に居ると言えば多少は休ませても貰えますし、頼めばその期間は早めに帰しても貰えると思います」

私がそう話すのを聞いて、ほっとした様子で杉井さんは言った。

「そうですか。では今度の診察時に先生からご主人に外泊の話をしてもらいます。そしてご主人の希望を聞いて、取り敢えずの計画が立ちましたら、それから私の方から具体的な日程を奥様にご相談して調整するということで構いませんか?」

「よろしくお願いします」

私は頭を下げた。

夫が外泊してくれば、私は仕事と夫の世話に明け暮れることになるだろう。

そしてもう彼と会う時間はほとんど取れなくなってしまう。

もっとも夫が退院したら彼と付き合っていけるはずはないのだが。

当たり前の現実を私は目の当たりして、暗い気持ちが胸に渦を巻く。



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