優しい雨
私は彼のいたわりに涙が出そうになった。

普段からこうしたふとしたことに、彼の優しさを感じて、私はよく涙ぐんでしまう。

だけど彼には悟られないようにしていた。

辛気臭い顔を見せないように、私は彼の前では笑顔でいるように努めていた。


車のラジオから、私達が高校生だった頃に流行ったポップスが流れ出した。

「懐かしいな」

そう言って彼は流れる曲に合わせて、歌を口ずさむ。

本当に懐かしい。

毎日がただ楽しくて仕方なかったあの頃。

教室で彼と二人きりになって、胸がときめいたこともあった。

もしあの時、彼に『好き』と言ったら、彼はどんな顔をしただろう。

運転する彼の横顔を見ながら、そんなことを思った。
< 85 / 137 >

この作品をシェア

pagetop