優しい雨
だからそんなことを考えて想像してみたところで仕方のないことだ。

しかし私は運命って不思議だと感じていた。

私の心が沼のような何かにまってしまい、身動きが取れず苦しんでいるのを、運命がそこから抜け出させる為に、タイミングよく彼と引き合わせてくれたみたいだ。

まるで彼は時間を越えてやって来た、優しい使者のようだ。

彼の昔のままの外見も、私にそんな神奇なことを思わせた。



部屋に着いてから、彼の好きなミュージシャンのDVDを流しながら、私たちはドーナッツにかじりついた。

「まるで高校生のデートだ」

彼は笑いながらドーナッツを頬張って言った。

「こういうのってカウチポテトって言うんだっけ?」

そう私が訊くと、彼は

「違うんじゃないか?カウチポテトっていうのは独りでごろごろするんじゃなかったか?」

と笑顔のまま答えた。

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