優しい雨
こんな甘い時間を失ってしまうかもしれない不安に私は怯える。

しかし黙っていたとしても、ずっとこんな時間を彼と過ごすこともできない。

キスの後にわたしは彼に訊いた。

「なぜ、私と一緒に居てくれるの?」

急な私の言葉に彼は目を見開いた。

その一瞬の表情が私を惹きつける。

「なぜって好きだから。好きだから一緒に居たいと思うんだろ。理由なんて他にあるのか?ありさは違うのか?」

彼らしい素朴な言葉に私は少しほっとする。

「違わない。違わないけど私はもっと複雑な思いもあるみたい」

考えていなかった言葉が口からこぼれてしまう。

「それはありさが結婚しているから?」

今まで一言も触れなかったことを彼は口にした。

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