ほっとちょこれーと *【完】
「あ、最後にもう1つ」
立ち止まる先輩の声に振り返る。
「思い伝えたからって報われるやつなんかほんの一握りなんだよ。お前 恵まれてんじゃん?」
にかっと笑って先輩は部室をあとにした。
「………。」
静かな部室にぽつんと残される俺
頭の中で伊吹先輩の言葉がこだまする。
「な…んなんだよ」
軽くため息をつく。
わかってるっつの。
言われなくったって俺だってわかってるっての…
床に転がるサッカーボールを見つめる。
心結先輩を離したら後悔するし
1回でも離したらもう戻ってこない。
「……くそっ」
――ガタン
「え、あ…翼…くん?」
振り返ると困惑気味の心結先輩が立っていた。
「先輩」
あー もう…
「その…颯斗に…呼び出されて……っきゃ」
口ごもる心結先輩を思い切り抱きしめた。
「……翼…君」
「伊吹先輩の名前、言わないで」
わかってるよ。
どうせ伊吹先輩が俺のために心結先輩を呼んだんでしょ?
「俺の名前だけ呼んで」
わかってるから言わないで。
「翼君……苦しい」
「約束したじゃん。君付けやめてよ」
「………。」
「先輩…どこにも行かないで」