天使と私の物語 -「Dの物語」
今日はここに来る前に心に固く決めていた


もし解雇されなかったら

今度こそ

“冷静で知的な家庭教師”を完璧に演じ抜こう、と


「ディーが大人?ふふ。そうじゃないって僕は知ってるよ」

いたずらっぽい笑顔で核心をついてくる


「僕は人を驚かせる天才なんだ。特に子供をね」

“子供を”の部分で私を指差した


「一緒にしないでちょうだい」

彼はこうして大人をからかうのが

楽しくてしょうがないのだ

乗ったふりをしてやるのも大人のつとめだ


今日は前回の無防備な私ではない

上手くやりこなせる


「ごめんよ、ディー、これ、驚かせたお詫びに」

彼は背後から大きめの箱を持ち出し

私の前に置いた


「あら、何かしら」

「開けてみて」


彼の顔をチラッと見る

ポーカーフェイスだ


きっと、飛び出すピエロでも入っているに違いない

大きな音が鳴る何かかもしれない


大げさに驚くべきか、鼻であしらうべきか、

反応に迷うところだ


警戒しながら箱のふたを開ける

何も出てこない


また彼の顔を見る

ポーカーフェイスは崩れない


中を覗けというのだ

彼の顔を半ばにらむようにしながら、

箱の両側に手を掛ける


その時

予期しない感触が私の手に伝わった

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