天使と私の物語 -「Dの物語」
ようやく美容室から出て来ると、街はすっかり暗くなっていた
通りに出てタクシーを拾い、行き先を告げると
シートに深く腰を下ろしてハイヒールを脱いだ
慣れないものを履いたせいで足の指先がすでに痛み始めている
今からこれでは先が思いやられる
足の指をグーパーさせながら、後部座席の窓に映る自分の顔を見た
“化粧”とはよく言ったものだ
顔と髪に立体感と色が加えられて
素顔にドレスだけ着ていた時の明らかな違和感が和らいでいる
たっぷり塗られた口紅が艶めいて、なんだが気恥ずかしい
唇を突き出してみる
ちょっとした高揚感を感じていた
彼がこの姿を見たらどう思うだろうか
いつもと違う私にどんな声を掛けてくれるのだろう
「ふふ」
思わず漏らしてしまった声に、はっと我に帰った
バカな‥
私は何を期待しているのだろう
そんな対象として彼を見るべきじゃない
(どうかしてるわ)
私は顔の前でパタパタと手を振り
座席横の窓を開けた
こんなおかしな感情は
風に流されてどこかへ行ってしまって欲しかった