天使と私の物語 -「Dの物語」

映画は、彼が大好きだという
車や飛行機がロボットに変身して
平和のために活躍する、というものだった


まるで少年のように
はしゃぎながら映画を楽しむ彼の横で
私も童心に還ったような気分でいた


私が夢中で観ていると

彼が横からポップコーンを投げてきたり

肩をつついてきたり

手を繋いできたりするので

なかなか集中できない


「もう!」

にらみ返すと
ニヤニヤ笑っている


彼は数少ないこうした機会を
めいいっぱい楽しんでいるようだった


映画が終わった
エンドロールで次々に立ち上がる客たち


場内が明るくなる前に
私達も早くここを出なければ


「さぁ、行きましょう」

私が促して立ち上がりかけた時


「オーマイガー!!彼だわ!」

女性の叫び声が響き渡った


両手を頬に当て彼の名前を連呼しながら
こちらに近づいて来る


(バレた!)


私と彼は急いで映画館を出ようとした

「ごめんなさい、通して、通して!」


しかし観客達は私達に道を空けてくれるどころか

騒ぎの元を確かめにでも来るように
私達の周囲に集まりはじめた


「逃げよう!」

彼は私の腕を取ると
すごい勢いで走りはじめた
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