天使と私の物語 -「Dの物語」

ディーヴァにキスされた彼は

今まで見せたことのない表情(かお)ではにかんだ


小さく肩をすくめて

まるで子犬がちぎれそうにその尾を振って

喜んで飛びついてくる時のような

そんなまなざしでディーヴァを見つめていた


その後も彼と手を繋いだまま

他のゲストと話し始めたディーヴァを彼はずっと見ている


とろけそうなまなざしで


誰の目にも明らかだ

彼はあのディーヴァを愛しているのだ


私は急に喉の渇きをおぼえて

ボーイのトレーからカクテルグラスをひとつ手に取った


ディーヴァはまだ彼の手を離さない


顔は彼と反対側のゲストに向いているが

身体はぴったり彼に寄り添っている


相変わらず彼は

そんなディーヴァを見つめている


ディーヴァはそんな彼の視線に

気づいているに違いなかった


時折、彼の方を向いては

ウィンクしたり

腕を絡ませたり


そんなことをされる度に

彼は子犬のような表情を無防備に晒す


(あんな顔しちゃって・・・)


私と同じファースト・ネームをもつディーヴァは

確か私よりも3つか4つ年上だったと思う


彼女は大人の女性の狡猾さで

年端もいかぬ若者の気持ちを

もてあそんでいるように思えた


彼女の思わせぶりなそぶりに

彼がどんな反応を返すか楽しんでいるようだ


(まんまとのせられちゃってるわ)

私はカクテルを一気に飲み干した


添えられていたチェリーを口に含み

茎からぶちん、と引き抜いた


「踊らない?」


急に声を掛けられて

あやうくチェリーの種を飲み込むところだった




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