ピリオド [短編小説]
その正体は、あまりにも衝撃的で、アランはただ呆然としていた。
煙の中、1人の少女が光の壁を作っていたのだ。
緑おびた色をした光が、墜落した飛行機から出ている炎をおさえている。
「…あ…い?」
下半身半分消えている彼女を見て、ただ、名前を呟くしか出来なかった。
僕に何か出来る事はないだろうか…。
バロ様に頼めば飛行機をどかしてくれる。
そう思ったが、それでは未来が変わってしまう。
きっと、どこかに歪みが出てしまう。
それじゃあ、どうしろと言うんだ…?
ただ、見てろ。炎がそう告げているように見えた。

僕は神様なのに、何も出来ないなんて…。
自分への絶望感と罪悪感が一斉にアランを襲う。
愛は、炎を消し、力を使い果たしたのか、倒れていた。
「愛っ…!」
そう言って彼女に近寄り、彼女の手を握る。
まるで何百年、何千年も昔、純がアランの手を握っていた時と同じように。
「晃君…。私…ね。あなたと別れたあの日、凄い絶望的に陥ってしまった…」
アランは何も言わず、愛の話に耳をかたむけた。
「悲しかったの。辛かったの。私は、晃君が好きだった。大好きだった」
アランは目を見開いて、開いた目から一筋の涙を流す。
「僕も、好き、だったよ…。ううん。今でも、好き…どうしようもないくらい…」
前から分かっていた。
好意を消す事は出来ていない事なんて分かっていた。
だけど、僕は必死に閉じ、鍵を掛けた。
その心の鍵を開けられるのは、愛本人しかいないんだって事も。
薄々気付いていたのだろう。
彼女は愛で、“人間ではない”事を。

「神様に、「生き返りたい」と願った私は、この湖の番人を任されたの」
淡々と話す愛。
「他の人には見えるの…?」
「うん。一応ね。…湖がなくなったら、私も一緒に消えるって、言われたわ…」
「なくなったら…でしょ?」
「だから、“私は消える”の」
アランは愛の下半身を見る。
すると、既にお腹の辺りまで消えかかっていた。
「どうして…」
そう呟く。
「湖が、崩壊を始めてる…」
「ほう…かい…?」
「うん。水が、炎のせいで急激に減って、そのせいで木々達が倒れていっている…」
愛の目線の先には、次々に倒れていく木々が写っていた。
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