ピリオド [短編小説]
5.「新たな世界へ…」
幸い、死者は出なかったらしい。
愛は、死者が出ない事を望んでいたのだろうか。

愛の消失から一週間が経ち、世界は相変わらず平和だった。
この間の事件は、何事もなかったかのように。
それが、アランにとって悲しい事だった。
何事もなかったかのように時が流れていくのに、ムカついた。

しばらく空を見上げるアラン。
ふと、思い出したティラの言葉。
「お前は神様には向いていない」
知ってる。
そのくらい知っている。
だからってどうしろと言うんだ…?
神様をやめろとでも?
頭の中でごちゃごちゃとなり、やがて疲れ果て、雲の上に寝そべってしまった。
「アラン」
声のする方を見てみると、そこにはティラがある少女を連れていた。
アランは目を疑う。
「あ…い?」
「晃君。私…伝えたい事がまだ沢山あって、本当に最後に…神様に頼んだの」
「彼女は3分しかここにはいられない。しっかり聴くんだな」
そう言って、ティラは帰っていく。
「私が、何で“あんな事”したのか…。知りたいでしょ?」
「勿論。何で死んだ人間を“生き返らせた”?」
「…。羨ましかったから…かな?生きていられる人が…。今、生きているこの時を大切にしてほしかったの…」
自分を犠牲にして…。そうまでして彼女は生きる喜びを伝えたかったと言うのか…?
「アラン。私、もう一度人間になりたい。そして、今度は違う…別の自分で生きられなかった分を生きたい。この…もう何百年…何千年も変わらない体から…お別れしたい」
自分の体を見つめ、悲しそうに言う。
アランは何も言わず、ただ、愛の話に耳を傾けていた。
「晃君…。私と、私と一緒にやり直そう?2人で、美しいと思える世界を目指そう?」
「やりなおす…?」
「うん」と、頷き、話を続ける。
「つらいなら、やり直せばいいのよ。この世界がある限り…いくらでもやり直せる。死んだから何?生きていれば、やり直す事は可能なの。不可能なんて、ない、のよ…」
急に愛の体が透ける。3分が経とうとしているのだ。
「愛っ!!」
「私は、人間が好き。夢も、恋も、頑張れば可能になる人間が…大好き。晃君が、大好き…」
大好き。そう告げて白煙となり消えていく愛を呆然と見ていた。
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