ピリオド [短編小説]

「今日もこの世界は平和だな…」
アランは人間界を歩き回っていた。
いつも“雲の上から見ている”のも“仕事”の1つだが、地上に降りて歩きまわるのも、“仕事”なのだ。
それもこれも僕が“神様”だから。
なりたくてなった訳じゃないけど、人間になるよりかはましだった。
しばらく歩いていくと、
とある湖にたどり着いた。
「ここ…。来た事あるような気がする…」
すると、誰かがアランの袖を引っ張った。
「…っ!?」
アランは振り向いてその正体を確かめる。
そこにいたのは、アランと対して歳は変わらないと思われる少女だった。
「あの…」
「…愛…?」
まさか。そんな筈ない。
彼女がいるわけない…。
「あの…!」
「あ、は、はい…?」
少女は不思議そうに見ていたが、すぐに笑ってこう言った。
「あなた、見かけない人。ここは私の…いえ。日本で一番綺麗な湖です」
「僕…一回来たことある気がするんです」
アランがそう言うと、少女は悲しそうに笑ったような気がしたが、ほんの一瞬だったため、分からなかった。
「そう…。私は愛香です。さっき、「愛」って言いましたよね?愛香ですよ」
初対面なのに、笑顔を絶やさない彼女は、昔、僕が人間だった頃の記憶が正しければ、どこかで会っている。
そんな気がしてならない。
「僕はアラン。日本生まれだけどね…」
「アラン!いい名前ね!!アランは湖好きかしら?」
キラキラと水が光り、綺麗だとは思うが…
好きだとは言えないな…。
「ごめん。僕、湖っていい思い出ないから…あまり好きじゃないや」
「そっか。人それぞれだもんね。しょうがないよ」
笑顔なのに…どこか儚く感じる。
…どうもつっかかる。このモヤモヤした何か…。
その何かが分からない。もどかしいな…。
「じゃあ、そろそろ帰るよ」
「あ、うん。いつでも来て!待ってるから!」
先ほど湖を見ていた少女が、慌ててアランの方に向いた。
「うん。また来るよ」

“いつでも来て!待ってるから!”
どういう意味だろう。
彼女の家はすぐ近くなのだろうか。
それらしき家は見当たらなかったが。
「おかえりアラン。見回りどうだった?」
ティラが雲から下を見ながら言った。
「あ、ティラ。うん…まあまあだったよ」