ピリオド [短編小説]

「あ、この子可愛いでしょ?」
「ほら」と言って指を差し笑う愛香と、
「…よく分からないや」
と言って苦笑いするアランが湖をうろうろしていた。
「可愛いよ～…。鴨のアコちゃんって言うんだよ」
頬を膨らませてブーイングを出す愛香に、アランはまた苦笑いをするが、愛香は気にしないで話を続けた。
「私は“アコちゃん”って言ってるけど、本当はオスなんだよね」
よく分からず、「は?」と顔をしかめるアランを見て、愛香は微笑む。
「アコちゃんは昔、彼女のルルちゃんを亡くしているの…」
悲しそうにアコちゃんを見つめる愛香を見て、アランは不思議な感情に包まれる。
「亡くした…?」
「事故で」
まるで別人のように酷くはっきり言う愛香に恐怖を感じたアランは、固まってしまった。
「…まるで、“私達みたい”だよね」
「え…?」
さっきまでアコちゃんを見ていたが、急にこちらを向く。
「…今の、聞かなかったことにしてください」
意味が分からなかったが、言う通りにしておいた。
「今日はもう帰るね?明日、また湖を案内するから」
そんな愛香に、アランはただ頷く事しか出来なかった。