生徒会の秘蜜〜ケモノ達の誘惑〜
「そんな事なら、心配しなくても大丈夫ですよ」
ふと浮かんだ疑問にこてんと首を傾げるあたしの思考を遮るように、クスリと笑みながら時雨くんはそう続けた。
そのまま、時雨くんは一度は止まっていた足を再び学園へと進め、彼に手を引かれているあたしも必然的に歩き始めた。
「那智なら、すぐに追い付いてきますよ。俺も那智も、此処へは初めて来たわけではありませんからね」
……なるほど。
それなら、時雨くんがあたしの手を引きながら、迷いなく学園に向かえるというのも納得出来る。
この辺りは住宅街でショッピングで来るような場所じゃないのだから、何の用事で此処へ来たのかをあえて問うたりはしないけれど。
「おい、時雨!何普通に、置いてってんだよ!」
「おや、噂をすればなんとやら、ですかね」
突然背後から怒声にも似た那智くんの声が聞こえて、反射的にビクリと肩を震わせたあたしと打って変わって、時雨くんは流暢に笑みながらそう呟いた。
時雨くんは自然と歩を止め、それに合わせて那智くんを振り返り見やれば、眉間に深く皺を寄せた那智くんが走り寄ってくるのが見えた。
柔らかそうな紫色の髪が、朝陽を浴びながら、暖かい風に揺れる。
「ンの野郎、置いてってんじゃねぇよ。俺は時雨と違って、この辺りの地理に詳しくねぇんだからよ。…ッ、はぁ、疲れた」
「おや、この程度で疲れるなんて、最近体力が落ちたんじゃないですか?」
「…うるせぇよ。仕方ねぇだろ、最近部活に行ってねぇんだから」
肩で息を繰り返しながら時雨くんを睨み付ける那智くんと、愉快そうな笑みを浮かべたままの時雨くん。
……なんだろう、ふたりの背後に普通なら見えちゃいけないものが見えるよ。