白い鼓動灰色の微熱
母は変なところがある人で、怖がりなクセに、真実を目の当たりにしなければ気のすまない人だった。

例えば黒い塊が床に転がっていたとする。

普通、そんな怪しいものは遠巻きに眺めて正体を見極めようとするだろう。

なのに、母は、必ず、すぐに手にとってそれがなんだか確かめた。

それは、ただのゴミであることもあったけれど、母の見えない触角が探り当てた怪しい塊は、ゴキブリやその他の虫の死骸であることが多かった。

見て、それに気付けば触らずにすんだものを、手にとって確かめたりするもんだから、母は大騒ぎする羽目になる。

地面を掘りながら、そのときの光景を思い出して、彩世は次々に襲ってくる笑いの波に、抗えなくなっていた。

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