白い鼓動灰色の微熱
 変わりに、父のいうコトを忠実に聞こうとする彩世が、彩世の中で力を得ていった。

 はいつくばって方向転換した彩世は、初めは重い体を引きずるように這って、ユニットバスへ戻ろうとしていたが、そのうち腕に力が戻り、足に力が戻ってきた。

 しっかりと立ち上がることが出来た。



『そうだ。いい子だ、彩世』



 大事に飼っていたカブトムシを無理矢理標本にさされたことを思い出した。

 卵からかえした思い入れのたっぷりあるカブトムシだった。

 そのときも、普段やさしい父が豹変していた。

 昆虫採集セットを手にした父が、その中の注射器にいっぱいに、昆虫を殺し、内臓をとろかす液体を吸い上げた。

 そして、彩世に、カブトムシを殺せと言った。

 今のように。

 
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