白い鼓動灰色の微熱
 父の中には、まごうことなき狂気が住んでいたのだ。

 幼い彩世には、その父に抗う力などなかった。

『ほら、早く。彼女が目を覚ましてしまう』

 彩世の脳裏に、すやすやと眠る清香の顔が映った。

 駄目だ。

殺せない。

 彩世は最後の理性を振り絞って、もう一度玄関へ向かった。

 父がそこにいて、彩世を止めるのは分かっていた。

 が、ドアの前に父の姿はなかった。

 飽きたのだ。

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