白い鼓動灰色の微熱
 父は狂気をむき出しにするとき、その時間は持続しなかった。

 すぐにあき、彩世がグズグズしていると、殺しを命じたままふらりとどこかへ消えてしまうことがよくあった。

そして、しばらくして帰ってきて、狂気をどこかにしまい込んだ父が言うのだ。

『かわいい彩世。何をしているんだい?』 

彩世の体は一歩一歩がままならないほど重かった。

鉛の体を引きずっているかのようだった。

ドアまでたどり着いたときには、全身にびしょびしょに汗をかいていた。

彩世はドアに倒れ掛かるように体を預けた。

そおして少し休んだ後、かかっているチェーンを外し、鍵を開けた。

これで、外へ逃げられる。

父の力も、外までは及ばない。

よし。

右手はアイスピックを離さなかったので、左手でドアノブを掴んで押し下げた。

あとはドアを押し開ければ良いだけ。

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