白い鼓動灰色の微熱
玄関を上がって右手の部屋に、咲を通した。
 
二十畳ほどの、リビングである。
 
そこにも、カウンターキッチンのカウンターに、ショットバーのような背の高い椅子が、二個置かれているだけだった。
 
あとは大きな画面のテレビが床にじかに置かれたDVDデッキの上に乗せられてあるだけである。
 
徹底して、邪魔なものがない。

「ご両親と住んでいるの?」

 咲は二つしかない椅子をいぶかりながら見て、言った。

「いいや。両親はいない。ここにはオレ一人ですんでいる」

言って、咲の視線が椅子に注がれているのに気付いて、

「兄貴がたまに来るからね。椅子は一つじゃ足りない」

咲はほっとしたような顔をした。
< 60 / 243 >

この作品をシェア

pagetop