白い鼓動灰色の微熱
しょっちゅうここに出入りしている女、もしかしたら彼女がいるのではないかと思ったようだ。
 
彩世は微笑んだ。

「オレは彼女、いないんだ。ここに来るのも兄貴だけ」
 
それと、自由になりたい手の、持ち主と。

「座って。何かいれるよ」
 
咲の背中に軽く手を置くと、椅子について座らせた。
 
軽く触れた手からですら、咲の高鳴っている心臓に気付かされた。
 
咲は緊張しているのだ。

バクバクと波打つ心臓を押さえて、そこに座っている。
 
彩世にしても同じだった。
 
胸を突き破りそうなほど、心臓が騒いでいる。
 
もう少しで、咲の綺麗な手が手に入る。
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