白い鼓動灰色の微熱
彼女の呪縛の中で生きてきた、あの綺麗な左手を、開放してあげたかっただけなのだ。
 
彩世は目を開けると、自分用に入れた、ストレートでブラックの紅茶のカップを口に運んだ。
 
薄いカップのふちの感触が、おいしい。

咲の、白いカップに這いついた指を見た。

彩世は無意識にその指に触れていた。

咲が驚いている。

それに気付くと、彩世は手を離した。

「綺麗に爪が伸びたね。これからはずっとオレが手入れしてあげるよ」
 
咲は顔を上気させた。
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