【短編 幸福論】
「おい、お前。ちょっと待て。」

生活指導の教員である伊藤に呼び止められた。

「…なんですか?」

「お前、タバコ吸ってるだろ?」

伊藤の一言が脈拍を打つスピードを加速させる。

目が泳ぐ。

細かく手が震える。

瞬きが多くなる。

そう。普通の生徒なら。

「いえ、吸ってませんよ。持ち物検査でもしますか?でも何もでてこなかった場合、疑うだけ疑ってゴメンじゃ済まされないですよ。」

私の言葉を聞き、伊藤は眉間にシワを寄せた。

我ながらいい返答でした。

色々な解釈ができる返答。

吸っているけど証拠はもうないよ、というハッタリ。

ちらつかせる教育委員の存在。

可哀想に。まだ世間も知らない15歳に翻弄されるなんて。

こんな大人にはなりたくないです。

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