君の名は灰かぶり
それ以降、男は何も言わなくなった。
だから、サクヤも何も話さなかった。
だが、サクヤには
その無言の時が心地よく感じた。
──…そう、ボクらは確か。
こんな関係だったんだ。
ボクは、この男と何も話さなくても
安心出来て、傍にいると
不思議と落ち着く事が出来て──…
「着いたぞ」
サクヤが、そうこう考えているうちに
7階に辿り着いたようで
サクヤは男の肩から無造作に、
ポンと降ろされた。
たったそれだけの動作に
何故かサクヤは、寂しさを感じた。
男は早足に微妙に長い廊下を
歩くと308号室の前に足を止めた。
そして、手早く鍵を外すとドアを開いて
サクヤを手招いた。