君の名は灰かぶり


思い出せないような、

何かが合わないような──…


不自然な響き………



「何も考えるな」


エフは、そう言って恐々と

サクヤに触れた。


黒髪が寂しく揺れる。



「いいな?俺は…お前を──…」


とまで言いかけて

エフは言葉を区切る。


「なに?」

ただ自分を見つめているエフに


疑問を覚えたサクヤは、

ぼんやりと訊ねる。



そんなサクヤにもう一度キスをして

エフは瞳を歪めた。


数秒間の短いキスで

サクヤと間をとったエフは、


「シャワー行ってくる」

とソファーから立ち上がると、


唖然としているサクヤを

置いてきぼりにして


スタスタと歩いて行ってしまった。


ただひとつ、


───…ピタ


「──…もう、」


背中越しの


「もう、何処にもいくな」


寂しいセリフを残して。
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