キスより先はお断り!
 もうすぐ電車がくるアナウンスと人ごみの喧騒で賑わう改札前。

人目も気にせず、目の前の安堂くんは顔を少し赤らめてあたしを見つめている。


「いや、その。今日は、ずっとそれを言おうと思って誘ったんだけど……」

 なかなかチャンスがなくて、と照れくさそうにつぶやく安堂くん。

それはとても嬉しいのだけど、今ひとつ実感がわかなくて、どこか他人事のように聞いていた。


 だって、あの安堂くんの好きな人が、あたし?

どうしたらそんなことが結びつくだろうか、いや、到底結びつくわけがないのだ。


「ゴメン、突然で驚かせちゃったよねっ?……本当に、ごめん」

 照れもあったのだろうけど、言葉の最後は、少し辛そうだ。


「……あ、あの……」

 あたしが思わず口に出たのに、安堂くんは慌てていた。


「ゆ、ゆっくり考えてっ?今、返事を聞きたいわけじゃないからっ!」

 そして安堂くんは逃げるように手を振って、自分が乗る電車のプラットホームへと走っていってしまった。

名づけるとしたら、告白逃げ、といったところだろうか。


 取り残されたあたしは、そのままボケーッとしたまま岐路に着いた。

人生数少ない告白に、どこか雲の上を歩くような、ふわふわしたキモチだった。


 電車に乗り込む頃合を見計らったかのように届くメール。

「さっきは急にゴメン、気をつけて帰ってね」と、ついさきほどまで一緒だったあたしの身を案じてくれることにすごく嬉しかった。


悠里とは大違いなんだもの。


 しかし、あれからおよそ二十四時間が経つ、現在。

そんな悠里は、威圧感たっぷりにあたしの目の前にいるわけで。


 いつものセンセイモードで授業の後に呼び出され、あの小さな教室に入ったと思ったら、早速逃げられないように壁際に追いつめてきた。


 あの強引なカンジではなく、明らかに苛立っていた。


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