キスより先はお断り!
* キスの意味
 翌日もまた行われる塾の授業は、相変わらずだった。

本当は来たくなかったけど、不幸中の幸いなのか、今日は悠里の授業の日ではなかった。

それなのに、ホワイトボードの前に立つ先生が悠里と被る。


 悠里のあんなに怒った顔を見たのは初めてで、こんなに悠里のことで泣いたのも初めてだ。



「試験ももうすぐだし、気を抜かないように!」

 先生からの痛い指摘で、ようやく現実に戻れるのが今のあたしだ。


 授業が終わって、悠里がデスクに向かう職員室を横目に、賑やかなロビーへと辿り着く。

ため息なんて尽きたくないけど、自然とこぼれてしまう。



 ダメダメ、考えるもんか……!

落ち込むだけの自分なんてイヤだから、どうにか考えないようにするのに必死に取り繕う。


すると背後からは聞きなれた声が響いた。


「待って、美波ちゃんっ」

 ちょうど安堂くんも授業が終わったのか、慌てたように駆け寄ってくる。

昨日のことなんて忘れたかのように隣に並び、ニッコリと笑う。


「一緒に帰ろう?」

 もったいないくらい嬉しい言葉だ。

「うん、そうだね」

 帰り道の他愛無い話で笑うあたしたちを、すれ違う塾の子たちがもの珍しそうに見てくる。

そりゃそうだ、連日二人で帰っていれば、そういう誤解の目で見られるのもおかしくない。



……誤解じゃなくすれば、イイのかな?
 


 なんて、考えるあたしはズルイ女だ。

スキといってくれている安堂くんに甘えてばっかりで、辛いことから目を背けているのだ。
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