キスより先はお断り!
「ねぇ、美波ちゃんはそれでいいの?
好きな人に“好き”って言えなくて、“好き”って言ってもらえなくて」


 痛い。胸がズキズキする。

あたしの心の深いとこで、思い出すようにジクジク痛みが湧き上がる。

「それに、一緒に、っていっても授業だけでしょ?
恋人ならするよね。二人で帰ったり、どこかに出かけたり……」


 そう、あたしは悠里とそうしたかった。

でもそれは今のあたしたちにはできなくて、もどかしくて。


「手をつないだり……」


 だれにもバレちゃいけないから。

そうしたら、あたしも悠里もあそこにはいられない。


 安堂くんは、優しい声で言葉のナイフを突き刺してくる。

動けずにいたあたしは、手をとって引き寄せられる。



「……キスしたり」


 安堂くんが少しかがんだのか、耳の近くで声がした。

でも、そのときあたしは一つ気づいたことがあった。


 “キス”


 ああ、そうだ。
あたしはいつもしていた。


「美波ちゃん。それって、本当に──」

「安堂くんは、ずるいよ……」

 安堂くんの言葉をさえぎるようにつぶやく。

それには驚いたようだけども、距離は離れなかった。


「言うこと全部、頭や胸が痛くて、張り裂けそうになる。
ずっと募っていた不満とか愚痴とか、全部知ってるみたいに……」


「だって、僕は美波ちゃんを見てたから」


.
< 19 / 29 >

この作品をシェア

pagetop