キスより先はお断り!
 あたしは何を見て、何を感じたのか。そして、どうしたいのか。

それがようやくわかった。


「……そっか、それが安堂くんの伝え方?」

「そういうことになるかな?」

 顔を上げると、今にも顔がくっつきそうな距離まで安堂くんは近づいていた。

あたしの反応に少し手ごたえを感じているのだろうか、どこか嬉しそうにも見える。


 あたしは、決めたよ。


「うん、ありがとう。でも、ごめんね。あたし、やっぱり宮村先生が──悠里が好きなの」


 そういったときの安堂くんは、とても驚いていた。

 時々車のライトがあたしたちを照らし、不安も戸惑いも映していたけれど、今のあたしには覚悟しかなかった。


「安堂くんはたくさん優しくしてくれたし、話も合うし、悠里とできないことは安堂くんとならできると思う」

「じゃあ、なんで……?」


 理由なんていらない。


「それ以上に、悠里が好きなんだ」

 あたしだって悔しいくらい。

安堂くんを選べば、どれだけ楽になれるだろうか。想像つかないほど、きっと楽しい毎日になると思う。


 それでも、どんなに消しても心に残るのは、他でもない悠里しかいない。


「悠里はあたしには優しくないし、強引だし。ケンカも耐えないし、手も早いし……」


 あたしが知ってる悠里。

 面倒そうに相手にされてきた。
けど、一生懸命仕事をして、それでもなんとかあたしに時間を作ろうとしたのが、あの時間にあの教室だった。

 塾はほぼ毎日のようにあるから、なかなか休めない。
でも、それだけ悠里に会える日がある。


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