キスより先はお断り!
 ぽうっとするあたしをよそに、安堂くんは悠里に向き直る。

「先生。僕、美波ちゃんが好きなんです」

「───で?」

 相変わらずの直球勝負の安堂くんに、飄々とした悠里。

聞いてるあたしのほうがドキドキしちゃう。


「美波ちゃんが望むことは僕ならできます」

「……そうかもな」

「ゆ、悠里っ」

 そこは肯定しないでよ!

といいたかったのだけど、それを制したのは安堂くん。


「だから手を引いてください」

「断る」

 誠実な安堂くんの言葉を、悠里はためらいもなく一刀両断する。

だからといって、安堂くんも引き下がらなかった。


「美波ちゃん、寂しいんですよ!?僕なら……っ」

 あたしのことをとても考えてくれる安堂くんに、本当に申し訳なく想う。

あたしが思わず、一歩踏み出したときだ。


「悪いなぁ、安堂」

 メガネを外して、ゆっくりYシャツの胸ポケットにしまう。

その余裕ぶりに、思わず安堂くんもたじろいでしまっているようだ。


そして、悠里はそのままあたしを背後から抱きしめた。


 ゆ、悠里……?

他の塾生にも見られてしまうかもしれないのに、と考えるだけで、あたしはハラハラしていた。


けれど、その考えはすぐに吹っ飛んだ。




「それでも、コイツも俺も、好きなんだよ」


.
< 22 / 29 >

この作品をシェア

pagetop