キスより先はお断り!
「驚かせてごめんね、美波ちゃん」

「あ、あたしこそ、気持ちに応えられなくて」

 相変わらず優しい安堂くん。

きっとさっきの言葉は、優柔不断に揺らぐあたしを試したんだ。


けど、そんなあたしを守ってくれるように、温かい手がぎゅっと包み込んでくれた。


「美波ちゃんは笑ってて。じゃないと、僕、惨めだよ」

「……うん、ありがとう」

 安堂くんの瞳は、今にも泣きそうなほど揺れていた。

それだけ真剣にあたしのことを想ってくれたのかと思うと、言葉が出ない。


「まだ美波ちゃんのこと好きだけど、これからも仲良くしてね」

 ただただ、あたしは黙ってうなずいた。

そして涙を払うように、ニッコリ笑うと、

「もちろん、宮村先生がいやになったらいつでもどうぞ」

 と添えてきたので、あたしも思わず笑っちゃった。


「……ふふ、心強いよ」

「じゃあ、また明日ね」

「おー、帰れ帰れっ」

 悠里はシッシッと虫を払うみたく邪険にしていたけど、どうにか安堂くんとも笑って別れられた。


「バイバイ、安堂くん」

 本当に、バイバイ。


 駅のほうに一人歩く安堂くんの背中を見送ると、ぐいっと手を引っ張られた。

「ほら、いくぞ」

 大きな手のひらにあたしの指が絡まってるのを見て、少しの恥ずかしさとたくさんの嬉しさで胸がいっぱいになった。


「……ねえ、悠里。なんで来てくれたの?」

「そりゃ、もちろん──」

 ニヤリと口角を釣り上げた悠里。

こういうときこそ、なんていってくれるのだろうか、と期待してしまう。


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