キスより先はお断り!
 少し唇を離して、悠里を伺ってみる。

「き、キス……見られたら、どうするの……?」

「美波が辞めてくれるんだろ?」

「バカ」

「そんとき考えりゃいいだろ」

 そして、再び熱いキスが重ねられる。


 どうやら口下手な彼氏だけども、極上の甘い口づけは、愛情たっぷりだ。

そうじゃなきゃ、大きな手のひらにインクだらけで来るわけないもんね?


 ゆっくり顔を離すと、駅までのわずかな距離をまた二人で肩を並べて歩き出す。


「悠里、好きだからね」

 まだまだ子どもなあたしだけども、これからもあたしを愛して。

隣のたくましい肩に手をかけ、軽く体重をかけるように背伸びする。


少し汗ばんだ頬に、あたしは軽く唇を押し付けた。


「……美波」


 交わる視線。

驚いたあとに、ふとほころんだ悠里。


「じゃあ、これで解禁だろ?」

「へ?」

 すっとんきょうな声が思わずあがる。

悠里の言っている意味がわからない。


「待ちくたびれた」

「きゃっ……!」

 そういって、人一人通るのがギリギリなくらいの、ビルとビルの間の小さな隙間に強引に手を引きこまれる。


「ちょっとだけ」

 言葉よりも先に腰を引き寄せられ厚い胸板に抱きしめられる。


「ちょ、ちょっと、悠里……っ」


 好きだよ、悠里。──だけどね。


「反省してないなら……」

 あたしだって、少しは強くなってやるわ。


< 26 / 29 >

この作品をシェア

pagetop