キスより先はお断り!
 でも、その瞬間、悠里の顔がよぎる。


「い、イヤっていうか……」

 いくらキスより先は禁止宣言したとはいえ、悠里を裏切ることになるのではないか。

でも、同じ塾生と勉強して何が悪いのか。学校のクラスメートとなんら変わらないはずだ。


 そんな迷い。



「…あ、あの、安堂くんはどうしてあたしを誘うの?」


 彼は学力もトップクラスで高校だって違う。それこそ、もっと頭がよくってカワイイコなんて、同じクラスや同じ学校にいるだろうに。

それを鈍くさい亀みたいなあたしなんかを誘うなんて、とうてい理解できるわけがない。


 ぎゅっとスカートの裾を握り締めて、チラリと隣をのぞく。

すると、予想外に安堂くんは照れたように俯いていた。


「……仲良くなりたいな、なんて…」

 こんなドンケツなあたしと一緒にいたって、安堂くんにとってなんのプラスになるわけない。

けれど、ぽりぽりと恥ずかしそうに頬をかく姿はなんだか初々しい。


「…あたし、たくさん安堂くんに聞いちゃうよ?」


 何を迷っていたんだろうか。

悠里だけを目的に塾に通っていたんじゃ、身ももたない。

勉強ももちろんだけど、友達っていう戦友がいるからこそ、がんばれるときもあるはずだよね。


「いいの?」

 ぱっと更に嬉しそうにする安堂くんの顔。


「うん、あたしなんかでよければ」



 このときのあたしには、悠里の顔なんてこれっぽっちも浮かんでこなかった。

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