ティアラ2
「ありがとう」

「いや、振り回して悪かったな」

車からおりたあたしに、初めて謝った彼。

……おかしい。

さっきまで、拉致られている気分だったのに「ううん」なんて返事をしてしまった。

少し走らせてからまた止まり、軽く1回、クラクションを鳴らして帰っていった彼。

「……」

なんで、あたしはすぐ動かずに、彼が見えなくなるまで立っていようとしてるんだろう。

小さくなる赤い車。

ぼんやり眺めているけれど、そんな自分が気持ち悪くてため息がでる。

もう角を曲がったみたいだし、そろそろ家へ帰ろう。

そう思ったあたしは、紙袋のなかにある自分の服を見ながら、くるりと体の向きを変える。

そのとき、声がした。

「おい」っていう……篤紀の。
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