ティアラ2
キシッと音が鳴る。微かに車が揺れた。

目を向けると、透吾がひじをついて起きあがってくる。

伸びてきた手。それは、あたしの耳もとにそっと置かれた。

「君で撮りたい」

サラッと囁かれた言葉。

唐突で簡潔すぎるものだから、思考回路は働こうともしない。

けれど、そのまっすぐな瞳……。

強い視線にとらえられたあたしは、まるで写真のように動けなくなる。

「少し前までの俺は、オヤジを越えてやるって気持ちしか持ってなくて……有名になることだけを考えてた。

名のあるブランドからの依頼は何でも受けて……言われるままシャッターを押してた」

透吾はスッと、あたしの手から写真を奪う。
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