ティアラ2
「でも、気づいたんだよ。……後ろから誰かに殴られた気分だった。これは俺自身に来た仕事じゃないんだ、ってわかったときは。

……オヤジの名前を背負ってる俺だからもらえた仕事なんだよ、全部。……だから、どんな写真でも喜ばれる」

数秒ながめ、捨てるようにあたしの手に戻した。


「俺はもう、化粧品や洋服のメーカーなんかで満足はしない。“透吾”っていうブランドを作りたいんだ。売れるものを撮るんじゃなくて、俺が撮ったものが売れる、ってくらいにね。

……そうすれば、いつかはオヤジを超え……いや、オヤジに近づけるんじゃないかって思ってる。…………そのためには、君が必要なんだ」

力強い言葉。

悔しそうに噛み締めた唇を、じっと見つめるあたし。

また、あたしの手もとに手を伸ばす。

写真と一緒に重ねていた紙を引っ張る、彼。

「協力してくんねぇかな? 次に出す写真集でキメたいんだよ」

その紙を、ひらりとあたしに向けた。

そこには細かく給与などの説明が書かれてある。

「なんであたし? その写真集って林田エリカが……」

「あぁ、あんなのずっと前に断ってる。向こうは売名かなんかで騒いでるだけだろ」

「でも……」

「俺が撮りたいのは、お前なの!」
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