ティアラ2
第3章

雨の日よりも憂鬱で

「……楽しいですか?」
何もかも、彼女が望んだことのように見えた。
「ねぇ笹野さん……楽しい?」
悔しくて、悔しくて。負け犬みたいに店を去る自分が、また情けなく思えて。

そんなあたしに追い討ちをかけるような言葉を、篤紀は言った。
「俺も……もう疲れた」
眼鏡の奥の瞳はもうあたしを映してなくて……。
「別れよう」
その台詞を口にするまで、彼はどれくらい悩んだのだろう。迷ったり……したのかな?

負け犬から捨てられた犬に変わっていく、あたし。去っていく彼は、一度もこちらに向かなかった。

あたしたちの間で「別れる」という選択があったことに驚き、頭の中がパニック。その様子をジッと見ていた彼女は、帰ろうとするあたしにこう言った。

「楽しいよ」
ほくそ笑むその表情は、サスペンスドラマの殺人犯みたいに恐ろしくて。

初めて見るその姿に、あたしは何も言い返せなかった。
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