ティアラ2
見覚えのある黒い革靴。来たか、と顔をあげるあたしに、彼はうんざりした表情で言った。

「いまはホテル暮らしだって言ったよな? 俺」

電話のときと同じように、ため息まじりで囁かれる。

すっくと立ち上がると、長時間しゃがんでいたせいで、ひざとふくらはぎが痛み出した。あたしはそこを軽く手で揉みながら、明るい口調で答える。

「言われたような気もする」

TAMAKIを後にして、駅までの道を歩いていたあたしは、ふと目についたスーパーで透吾の存在を思い出した。
まっすぐ帰る気にもなれなくて、だからといって直子に愚痴る体力もないあたしは、思いつくまま彼の電話を鳴らしたの。
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