ティアラ2
車からおりたあたしの背中をそっと押して、エレベーターの位置を知らせる彼。

「…………」
何もないとは思うけど。彼氏と別れた日に他の男の家にあがるなんて、最悪。今さらだけど、自分の行動に嫌気がさした。

でも、ここまで振り回しておいて突然、「帰る」なんてことは言えない。あたしは戸惑いながらも、エレベーターの中に入る。

「あ、あたし……そんな軽い女じゃないから」
何もないはず、とわかっていても不安だった。11階へとのぼる狭い空間のなかで、あたしは一応、彼との間に予防線を引いておく。

透吾は最初、いきなりの言葉に「え?」と首を傾げていた。でもすぐに、何が言いたいのかわかったのだろう。彼は「はっ」と軽く笑い、見下すような顔つきでこう言った。
「お子ちゃまに手を出すほど、うえてないよ俺は」
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