ティアラ2
「そこ」
突然、あたしに向かって、自分の前の席を指差す彼。そのひと言で場はシーンと静まり、騒がしかったひとたちの目は一瞬にして、こちらに向いた。
「あ……うん」
賑やかな空気に圧倒されていたあたしは、コクリと頷いてそっと言われた席へ行く。

……気まずい。

さっきまで笑っていたひとたちが、真面目な顔をした。場を盛り下げてしまった気がして、あたしは思わずうつむき加減になる。そのとき、だった。

「この子が?」
30歳くらいでおでこが広く、アゴひげが印象的な男性が訊ねた。その声を聞いて、あたしへの視線は全部、その男性と一緒に透吾へと移った。
< 349 / 527 >

この作品をシェア

pagetop